Niemann-Pick type C: contemporary diagnosis and treatment of a classical disorder
Pract Neurol 2019;0:1–4.
DOI :10.1136/practneurol-2019-002236
Niemann-Pick病 C型:古典的な疾患における 近年の診断と治療
Niemann-Pick病 C型は若年発症の神経症状で鑑別に挙げることはありますが,症候や診断について学習不足だったので今回読んでみました.
上記のBMJのページでは,症例の動画を観ることができ,歩行の様子や眼球運動障害,ジストニア動画が載っています.参考になります.
※本邦で記載されている検査(オキシステロールなど)は国内では保険収載されていないのでご留意ください.
症例提示
症例:29歳 女性
[家族歴]
神経疾患の家族歴なし.父とは父が30代半ば頃から会っていない.
[出生・成長発達]
周産期に異常はなく,成長発達も問題なし.普通学校に通った.乗馬競技にも参加した.
[現病歴]
中等学校の時に脳性麻痺と指摘された.補習授業が必要になった.集中力や運動能力に問題が生じた.下方の物を見る場合,頭を下げたり,目の高さまで持ち上げる必要があった.立つのが不安定になったが,介助は不要であった.
15歳の時,施設に移り,思春期向けの生活技能訓練を受けた.読み書きができ,店員として働き始めた.
数年後に,口や顔面,上下肢にそわそわした動きが出現した.強剛や感覚障害,膀胱直腸障害はなかった.転倒するようになった.徐々に歩行不安定となり,母の介助が必要になった.会話能力は退行し,文の会話から,数語しか話せなくなった.
22歳の時,夜間に強直間代発作がみられた.毎月,発作が群発し,当初はバルプロ酸で加療したが,認知機能や平衡感覚障害が悪化した.レベチラセタムに変更し,2年間 発作寛解となった.同時期から,笑った際に首が下がり,数秒で改善する様子がみられた.発作の治療でこの首下がりも改善した.日中の眠気はなく,夜驚症,睡眠麻痺はなかった.
28歳から嚥下障害も生じ,柔らかい食事にした.気分は安定し,抑うつなどの症状はなかった.
29歳 進行性の症状について紹介となった.
[診察所見(29歳時)]
意識は清明で,左右非対称な顔の動きと,顔面上下肢の不随意運動を認めた.発語は緩慢であった.歩行非常に不安定であり,2人の介助が必要.上下肢でジストニア肢位もみられた.
核上性垂直注視麻痺を認めるが,水平眼球運動はfullであった.水平方向の追視や注視は緩慢.
痙性はなく,腱反射は正常で,足底反射は屈曲.
Addenbrookes Cognitive Examination 24/100(注意6/18,記憶2/26,流暢性2/14
言語10/26,視空間4/16).
(BMJのページで,歩行,眼球運動,上肢ジストニアの診察所見を観ることができる)
[検査所見]
血液検査:軽度の鉄欠乏性貧血はあるが,肝腎機能や甲状腺,CRP,赤沈,抗核抗体,免疫グロブリン,蛋白電気泳動に異常はない.HIV,梅毒は陰性.有棘赤血球は認めない.血清セルロプラスミン,アミノ酸,極長鎖脂肪酸,尿アシルカルニチン分画,有機酸に異常はない.
MRI:7年の経過で小脳と脳梁が進行性に萎縮した.
髄液検査:細胞数,蛋白,糖は正常.Tropheryma whippleiのDNA PCRは陰性.
脳波検査(29歳時):側頭部にspikeを伴うslow transientsを認めるが,てんかん波は認めない.
血清オキシステロール:61.5ng/mL (正常値 : 9.6~37)
鑑別疾患
本例は思春期から10年以上かけて進行する神経症状で,てんかんや認知障害,カタプレキシー,核上性垂直眼球運動麻痺,嚥下障害,失調,ジストニアを伴った.症状から,小脳や基底核,大脳,脳幹の障害が示唆される.症候から,Niemann-Pick病C型が考えられる.
(本症例について,文献中では最終的な診断名は記載されていなかった.NPC1,2の遺伝子検査についても記載がない.しかし,内容的にNPC typeCの症例であったと思われる)
以下,鑑別として考えられた疾患
錐体外路障害を伴う運動失調の鑑別疾患は,SCA2型,3型,17型,毛細血管拡張性運動失調症,神経有棘赤血球症などを考える.
認知機能障害,小脳障害,錐体外路症状からは,ハンチントン病,DRPLAも考えた.しかし,垂直眼球運動障害は典型的ではない.
ジストニアや痙攣から,グルコーストランスポーター1欠損症を考えるが,通常は4歳以下で欠神発作を生じ,髄液糖正常であることは非典型的な所見である.
Wilson病は 失調やジストニア,垂直眼球運動障害など様々な神経症候を呈する.本例はKayser-Fleischer ringsはなかった.
Whipple病も 眼球運動障害や不随意運動を呈しうる.本例は消化器症状や髄液PCRは陰性であった.
Gaucher病A型は種々の神経症状を呈するが,早期から核上性の水平眼球運動障害を生じる.
考察
Niemann-Pick病C型について
スフィンゴ糖脂質の蓄積が生じるライソゾーム病.
エクソン解析では,既存の原因遺伝子変異は1:19000-36000でみられるとされる.
急速進行例から成人発症緩徐進行例まである.70代まで生存することがある.
早期発症型では,胆汁うっ滞性黄疸,肝脾腫,急性肝不全を呈するが,遅発型ではこれらの特徴はない.
笑った時に引き起こされる全身の脱力(Gelastic cataplexy)は早期発症型でより多い.
核上性垂直眼球運動(初期から下方向の注視麻痺)は共通した特徴である.
脳MRIでは,症脳萎縮や脳梁萎縮などがみられる.
オキシステロールの診断的役割
培養皮膚線維芽細胞のコレステロールエステルの検査や,フィリピン染色で診断がされてきた.最近ではNPC1やNPC2などの遺伝子検査が行われるようになった(本症の10%では1つの変異しかみられない.意義が判明していない新しい変異が見られることもある)
血清オキシステロールは第一選択の検査として行われ,陽性適中率は>97%とされる.他の代謝性疾患でも上昇しうる(スフィンゴミエリナーゼ欠損症,酸リパーゼ欠損症,脳腱黄色腫症など).しかし,臨床症状とオキシステロール上昇は診断に役立つ.
Key points
- 脳性麻痺では症状が固定する.進行性の脳性麻痺は再評価する必要がある.
- Niemann-Pick病C型は各錠性垂直眼球運動麻痺や進行性不随意運動を呈する.
- 本症の多くはカタプレキシーを伴う.
- 血清オキシステロールは早期診断に役立つ.