最終更新 2021年4月6日
今回,傍腫瘍性神経症候群の画像所見に関するReview文献を読みました.腫瘍により異常な免疫が惹起され,その異常免疫が神経を攻撃してしまう,と非常に興味深い機序です.
本論文は脳,脊髄,末梢神経などの画像所見がまとめられており勉強になりました.特に画像多め(と思う)であり,画像を眺めるだけでもとても参考になります.
長い論文のため,2回に分けて共有いたします.
(治療や予後に関しては割愛いたします)
Imaging Review of Paraneoplastic Neurologic Syndromes
AJNR Am J Neuroradiol. 2020 Dec;41(12):2176-2187.
PMID: 33093137
DOI: 10.3174/ajnr.A6815
脳:辺縁系脳炎
病態・臨床像
海馬,扁桃体,視床下部,帯状皮質を含む辺縁系を障害する.
気分や行動変化,認知機能障害,記憶障害,痙攣などを呈する.
自己抗体・背景腫瘍
辺縁系脳炎は,様々な傍腫瘍抗体と関連する(Hu(ANNA-1)抗体,CV2(CRMP5)抗体,Ma2抗体など).抗体によっては辺縁系外の症状を伴うことがある.例えば,Ma2抗体は脳幹や小脳も障害し,CV2抗体は脊髄も障害しうる.
背景腫瘍として肺小細胞癌や乳癌と関連することが多い.
LGI1抗体やGAD65抗体,CASPR2抗体などの非傍腫瘍性の神経細胞表面抗体でも辺縁系脳炎を生じることがある.
画像所見
典型的な画像所見は内側側頭葉のT2高信号と腫脹である.時に,造影効果を伴う.FDG-PETでは代謝亢進を認めうる.他の辺縁系の部位にもこれらの所見が生じることがある(視床下部や乳頭体に明瞭な病変を認め,他の辺縁系は保たれることがある).海馬や扁桃体などの典型的な部分が障害されていない場合でも考慮する必要がある.
時に辺縁系脳炎は占拠性病変に似た画像を呈し,low grade~high gradeグリオーマやリンパ腫と誤認されうる.
治療により画像所見が改善し,FDG-PETでも改善後に代謝低下となる.
非傍腫瘍性辺縁系脳炎でも傍腫瘍性辺縁系脳炎と類似する病変パターンを呈するため,画像所見のみで傍腫瘍性辺縁系脳炎と非傍腫瘍性辺縁系脳炎を区別することはできない.
非傍腫瘍性の抗体が陽性の症例でも,稀に腫瘍が見つかることがある.そのため,殆どの場合で腫瘍のスクリーニングが必要である.
鑑別疾患
内側側頭葉を巻き込む辺縁系脳炎において,最も除外が必要な鑑別疾患は,単純ヘルペス脳炎である.皮質の点状出血や脳内血腫などの補助的な所見は,ヘルペス感染を示唆しうる.他の鑑別疾患としては,痙攣重積状態,神経梅毒,low~high gradeグリオーマなどである.視床下部を巻き込む辺縁系脳炎では,サルコイドーシスなどの炎症機序やリンパ球性下垂体炎などを考慮する必要がある.
病歴聴取,神経診察,頭部MRI,傍腫瘍抗体,脳波検査,癌検索(FDG-PET/CTなど)などを考慮する.腫瘤様の画像所見を呈する場合は,脳生検が必要になることがある.
脳:小脳変性症
病態・臨床像
傍腫瘍性小脳変性症(PCD)は四肢や体幹失調,眼振,構音障害などを特徴とする.これらの症状は週~月単位で悪化する.病理学的に,小脳Purkinje細胞の進行性の脱落である.
髄液検査では,細胞数増多やオリゴクローナルバンド陽性などを認める.
自己抗体・背景腫瘍
Yo抗体,Ri抗体(ANNA2),Tr/DNER抗体など,様々な腫瘍抗体と関連する.60%では癌神経抗体と関連する.背景腫瘍としては,卵巣腫瘍や乳癌,ホジキンリンパ腫などが多い.
画像所見
病期によって変わる.急性期には,小脳半球がT2高信号となることがある.この段階の鑑別としては,感染や炎症性小脳炎などである.
慢性期には,T2高信号は改善し,FDG-PETでは代謝低下し,萎縮する.
鑑別疾患
アルコール性小脳変性症,神経変性疾患(MSA-C),感染や炎症性小脳炎の後遺症などである.詳細な病歴聴取(アルコール使用,小脳感染),頭部MRI,傍腫瘍抗体検査,癌検索,女性の場合は骨盤部超音波検査やMRI,などを考慮する.
脳:脳幹脳炎
臨床像・病態
脳幹優位に炎症が生じる病態で,小脳脚や小脳半球の障害も併存する.失調,構音障害,眼筋麻痺など多様な臨床像を呈する.
自己抗体・背景腫瘍
最も多いのは,Ma2抗体であるが,近年はKelchlike protein 11(KLHL11)に対する抗体も認識された.
関連する腫瘍で多いのは,セミノーマなどの精巣胚細胞腫瘍である.しかし,神経内分泌腫瘍など他の腫瘍も関連することがある.
画像所見
画像所見は,病期によって画像所見が異なる.
急性期は小脳や小脳脚,脳幹部のT2高信号and/or造影効果を呈する.
進行すると(慢性期),小脳や脳幹部が萎縮することがある.Waller変性を生じると橋の十字型T2高信号や中小脳脚のT2高信号を生じ,多系統萎縮症(MSA)と非常に類似した画像となりうる.
オリーブ核の異常肥大性変性(Hypertrophic olivary degeneration)が見られることがあり,歯状核ルイ体オリーブ経路が障害されるためと考えられる.
画像検査では正常であることもある.
鑑別疾患・鑑別のポイント
急性期の鑑別疾患は多岐にわたる.リステリア感染や単純ヘルペス感染,炎症性疾患(Behçet病,全身性エリテマトーデス,Bickerstaff脳炎,Miller-Fischer症候群)などが鑑別になる.脱髄疾患(多発性硬化症,NMOSD,MOG抗体関連疾患)も鑑別が必要である.慢性期の鑑別疾患としては,MSAや他の神経変性疾患などである.
MRI画像,傍腫瘍抗体検査(最近発見されたKLHL11抗体も含めて),男性では精巣エコー検査 を実施すべきである.
頭部:脳神経麻痺
臨床像・病態
傍腫瘍性脳神経麻痺は稀であり,過去に幾つかの報告しかない.症状は障害される脳神経によって異なる(例えば,第Ⅷ脳神経麻痺では平衡感覚障害と感音性難聴を生じる).複数の脳神経麻痺を生じることがある.
自己抗体
Hu(ANNA-1)抗体とKelchlike protein 11抗体(セミノーマ関連)は,特に傍腫瘍性脳神経麻痺を生じうる.
画像所見
画像所見としては,脳神経の造影効果and/or腫大を呈する.
鑑別疾患・鑑別のポイント
感染,急性脱髄疾患(GBS),CIDPなどである.神経サルコイドーシスやリンパ腫,癌性髄膜炎は,他の部位の結節状の造影効果を生じやすい.
CIDPは造影効果の伴わない神経根の腫大を呈する.薄いスライスでの脳MRIは,脳神経の評価や造影効果のパターンを評価するのに特に有用である.