Clinical Reasoning: A misdiagnosis of atypical trigeminal neuralgia
(Neurology - RESIDENT & FELLOW SECTION)
Neurology. 2019 Jul 16;93(3):124-131.
DOI:https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000007790
顔面痛の症例です.診断は初耳の病名でした.病歴聴取が肝ですね.
載せてはいませんが,文献内には三叉神経痛mimicsが2ページにわたって記載されています.非常に参考になります.
症例
47歳 男性
[現病歴]
2年前から右顔面痛が始まった.
痛みは,右顎に沿った刺すような非常に強い痛みで,5~60秒間持続する.咀嚼や歯磨きで悪化する.
痛みのあまり,食事を控えるようになり,20ポンド体重が減った.食べられる時は左側で咀嚼するようにした.
症状が始まった頃から,頭部を右に動かした際に右耳介から下顎角にかけて感覚低下や灼熱感も感じるようになった.
非定型三叉神経痛が疑われ頭痛クリニックに紹介となった.
[追加病歴]
症状発症前に頸部の多形腺腫切除術が施行されていた.
右側で咀嚼すると強い痛みが誘発され,飲み込むとすぐに軽快する.
食べ物を考えたり,食べ物の匂いだりしても,同様の痛みが誘発される.
持続性の灼熱痛が下顎角や耳にあり,軽度で発作性の痛みでも変動がなかった.右耳の下部から下顎角に沿った顎の痛覚低下がある.
他の神経所見は正常.
酸っぱい飴を用いた唾液誘発試験では,飴を口に入れる前から発作的な刺すような痛みが出現し,口に入れると噛む前から痛みがさらに悪化した.5秒間噛むと,もとの痛みに戻った.
本例の疼痛
・発作的,刺されるような,ショック様の痛み→neuralgic pain
・左耳介下部~下顎角の範囲に持続性の灼熱感,感覚低下→neuropathic pain.三叉神経領域外.
診断
First bite syndrome + 大耳介神経痛
First bite syndrome(FBS)
唾液分泌で生じ,数回の咀嚼後に軽快する痛み→FBSを疑う.
FBSは咽頭周囲や上位頸椎領域の手術で生じ,特に交感神経が障害されたときに生じる.他にも大動脈解離や腫瘍浸潤でも生じる.
本症の病態は,交感神経と副交感神経の調整障害と考えられている.
痙攣するような強い痛み,あるいは電気ショックのような痛みと表現される.耳下腺や下顎角に生じる.食事毎に,噛み始めで痛みが生じ,数回噛むと軽快する.酸味のある食べ物が特に強い誘引となり,誘発試験として有用である.70%でホルネル症候群を合併する.他の神経所見は正常であることが多い.
同側の上位頚部や顔面の手術が無い場合は,画像検査で耳下腺や顎下腺,咽頭周囲の腫瘍を除外する必要がある.画像検査が陰性でも数ヶ月の経過で顕在化することがあるため,再検する必要がある.
本例では,耳垂下部から下顎角にかけて,持続性の感覚消失や灼熱感などを伴っており,FBS以外にも大耳介神経痛の併存も考えられた.
大耳介神経痛
大耳介神経は頚神経叢の分枝で,胸鎖乳突筋の周りを走行し,下顎角と耳下部への2つの枝に分かれる.しばしば下顎外側も広がる.
表面に位置するため,外傷性や医原性に傷害される.特に美容整形の皺除去術や,頸動脈手術,他の頸部の手術で傷害されうる.
三叉神経痛
痛みの様式:”再発性,発作性,片側性に三叉神経の1領域以上に生じる痛み”であり,上顎神経や下顎神経に生じる.
誘引:99%で何らかの誘引(Trigger)がある.軽く触る(83%),会話(59%),咀嚼(41%),歯磨き(36%).Trigger zoneでは,口や鼻の周囲が最も多いが,顔のどの部位でもtrigger zoneになりうる.
不応期:一部の症例では,発作痛の後に,次の痛みが誘発されない不応期がある.