手掌オトガイ反射(PMR:palmomental reflex)について,前頭葉徴候の一つと認識して,認知症やパーキンソニズムの症例では確認するように心がけていますが,いまいち解釈に悩む場合が多い気がしてました.
他の前頭葉徴候は出るが,PMRは出ない場合やその反対の場合もあったりということもよくあります.”この手技の有用性は?”と疑問もありました.
今回,PMRに関する論文を読んでみました.
Diagnostic yield of the palmomental reflex in patients with suspected frontal lesion
Journal of the Neurological Sciences 359 (2015) 156–160 Contents
https://doi.org/10.1016/j.jns.2015.11.003
頭蓋内異常を疑ってMRIを行う症例を対象として,PMRの有無を検討した研究.
Method
[Inclusion]
脳病変が疑われてMRIを行った成人患者.
[Exclusion]
顔面神経麻痺,顔面不随意運動,頚髄症の既往,母子球や顎の変形/欠損,診察困難,手技の記録不良,など.
[PMRの手技]
口は5mm開ける.
Taylor打腱器で母子球を斜めにこする.
刺激は皮膚の色が変化する強さで,10回連続でこする.
手技を習熟した看護師が施行し,それをデジカメで撮影する.記録を熟練したneurologistsが確認して評価し,反応をスコア化する.
Amplitude:weak=1(顎の50%未満),strong=2(顎の50%以上).
Persistence: 0=10回中1~4回反応する,1=10回中5回以上反応する.
Final scores = Ampliude score+Persistence score
[MRI]
3.0T or 1.5Tで撮影.
撮影シークエンスは3D T1/WI, axial and coronal T2/WI, axial and coronal FLAIR,axial DWI m axial SWI.
対側へのmass effectやedemaを伴う片側の占拠性病変や,水頭症を伴う病変は両側性病変として扱う.
偶発的な下垂体腺腫や,非特異的な白質高信号は有意な病変として扱わない.
Result
n=226 (年齢 44.9±15.9.男:女=24.8%:75.2%)
20例(8.8%)でPMR陽性 (70%で片側PMR,30%で両側PMR)
PMR陽性例の多くが50歳以上 (50歳以上vs未満:75% vs. 25%, p < 0.002)
PMR陽性例のうち9例(45%)でMRI異常あり.
MRIでの病変とPMRの側性
・病変と同側にPMR:44%
・病変と対側にPMR:11%
・片側病変で両側性のPMR:22%
・両側病変で片側性のPMR:11%
・両側病変で両側性PMR:11%
MRI病変の部位
・前頭葉:6例(67%)→3例が前頭前野,mesial, dorsolateral and orbitofrontaが1例ずつ.
・側頭葉:44%
・びまん性:11%
(PMRは 前頭葉病変>それ以外の部位)
前頭葉病変31例のうち,6例でPMR陽性(感度19%).
前頭葉病変がない195例のうち,PMR陰性が181例(特異度93%),PMR陰性 or Score1は189例(特異度97%)
PMRでの前頭葉病変診断率(PMRのscore1~3を含めた場合)
感度 19%,特異度 93%,陽性適中率 30%,陰性適中率 88%,陽性尤度比 2.7 ,陰性尤度比 0.87
PMRでの前頭葉病変診断率(PMR score2以上に絞った場合)
感度 19%,特異度 97%,陽性適中率 50%,陰性適中率 88%,陽性尤度比 6.3 ,陰性尤度比 0.8
思った以上に感度が低いことに驚き.だが,特異度は高い点は有用と思う.
PMRをスコア化するという点は面白く,ぜひ日常診療でも着目したい(その方が特異度や陽性適中率も上がる)
DiscussionではPMRと似た反射でpollico-mental reflexという反射が記載されており,1958年の報告では特異度100%のよう.しかし,原著が見つからず…診察手技もいまいち見つけられなかった.↓
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/13564250