最終更新 2020年11月12日
研修生・神経非専門医向け神経診察時の実践的なtips
神経診察に関する論文です.神経研修生向けの診察手技Tipsのようですが,実際,ある程度神経に親しんだ医師にとっても役立つ無いようなのかな,と思いました.
今回は,その中でも個人的に「これは使ってみたい!」と思った手技を取り上げました.
目次
今回の論文
Tips for trainees: some practical tips on clinical examination
Pract Neurol. 2020 Oct 2;practneurol-2020-002659.
doi: 10.1136/practneurol-2020-002659.
PMID: 33008842
滑車神経でのArrow sing(矢印兆候)
上斜筋(滑車神経支配)の働きは複雑である.
眼球が内転している場合,上斜筋の働きで眼球が下転する.眼球が外転位の場合,内旋運動を起こす.第一眼位では,これら2つの運動が混在する.結果として,滑車神経麻痺では,障害されていない筋の作用で,上転と外旋が生じて,垂直性と回旋性の複視となる.
これを証明するために簡単な方法は,患者の前に長い直線の物品(例:打腱器)を提示することである.これにより,患者は線が矢のように見える.2つの画像は病側で1つに集まる.
眼球回旋の所見は,動眼神経麻痺の診察時にも役立つ所見である.
海綿静脈洞などの病変では,動眼神経単独麻痺だけでなく,滑車神経麻痺も合併しうる.動眼神経麻痺がある場合,眼球は外転する.その状態で下を見るように指示し,もし眼球が下転する際に内旋しない場合,動眼神経麻痺に滑車神経麻痺が合併していることが示唆される.
(上斜筋の動きは内旋を生じ,強膜の血管を見ると確認しやすい)C5神経根症と腋窩神経麻痺
肩の筋力低下は,神経根障害や神経叢障害,末梢神経障害などを鑑別する必要がある.
三角筋は,C5神経根が腋窩神経を通って支配する.
棘上筋はC5神経根が,肩甲上神経を通って支配し,肩関節の外転に関連し,三角筋による動きとoverlapする.
棘下筋はC5神経根が肩甲上神経を経由して支配し,肩関節の外旋に関連する.A. 腋窩神経病変→三角筋障害
B. 肩甲上神経病変→棘下筋障害
C. 重度のC5神経根障害→三角筋と棘下筋,棘上筋が障害される.L5神経根障害と総腓骨神経麻痺:股関節外転
足関節背屈と外反はC5神経根障害と総腓骨神経麻痺のいずれでも生じるが,足底屈はいずれでも生じない.
足関節内反は総腓骨神経麻痺で保たれる.L5神経根症では足関節内反が障害される可能性があるが,必ずしも障害されるわけではなく,個人的には強調されすぎていると感じる.
股関節外転も非常に有用である.L5神経根障害で筋力低下が生じ,総腓骨陰茎麻痺では保たれる.
斜めサッケード
疾患によっては,垂直性サッケードが選択的に緩慢になり,水平性サッケードが保たれることがある(例:ニーマン・ピック病C型,早期の進行性核上性麻痺).熟練した神経医は,サッケードの速さが正常化どうか見分けられるが,慣れない場合は難しい.
垂直性サッケードと水平性サッケードの速度の差を比較しやすい方法として,斜めサッケードを行う方法がある.
例えば,左上方の指標を注視してもらい,その次に右下の指標を注視してもらう.もし垂直性サッケードが緩慢であれば,水平性サッケードが先に終わるため,眼球が曲線を描くように動く.
もし,左目の内転が緩徐で,他の動きは正常の場合,右目は真っ直ぐに動くが,左目は曲線を描くように動く.Bing sign
足底反射(Babinski反射)を診る際に,刺激に対する逃避反応として母趾伸展を生じてしまう場合は,臨床的意義が乏しい.このような症例では,いわゆるBing signが有用である.
Bing singの手技としては,母趾の背側をディスポのピンでチクチクと何度か刺激する(痛覚の診察と同じように).母趾が進展する場合(ピンに刺さるかのように伸展)は,真に伸展である.屈曲動作が生じる場合は逃避である.
体幹部ニューロパチーでのMedian Strip(中央分離帯)/クリスマスツリー感覚消失
体幹部のlength-dependentな感覚性ニューロパチーでは,しっかり調べなければ検出できない.多くの医学生は,手袋靴下型の感覚障害は知っているが,体幹部での感覚障害については知られていない.
胸部と腹部の神経のうち最も遠位の領域は,腹側の正中部であると考えられる.
診察手技としては,腹部正中から外側に向かって,痛覚や温度覚の刺激を移動させていき,感覚の変化を確認する.感覚障害される範囲は,しばしば,頭側側で狭く,腹側側で広い.そのため,クリスマスツリー型となる.脊髄の障害高位と誤認しないよう注意する必要がある.
論文を読んだ感想
知らなかった手技も多くあり,非常に参考になる論文でした.Arrow sing,斜めサッケード,Bing singは,比較的シンプルな方法であり,実践しやすいです.
特に,垂直性眼球運動障害の診察で,自信を持って異常と言いにくかったことがしばしばありました.斜めサッケードをぜひ試してみたいと思います.
まだ,実際の診察で試していないので,感覚がわかりませんが,機会があれば診察に取り入れてみます.
神経診察は非常に奥が深いです.今一度,神経診察を学びなおしたいと強く感じました.
参考までに
上記の論文中でL5神経根症と総腓骨神経麻痺の鑑別において,股関節外転が有用とありました.
その点について,以前,下垂足について読んだ論文が参考になるかと重い,載せておきます.興味のある方は御覧ください.