前回は多発性硬化症(MS)のMRI所見に関する総説を取り上げました.
今回はMSと鑑別が重要である,NMOSDの画像所見について取り上げたいと思います.実践的な内容が多いですが,非常に内容が濃いです.
目次
今回の文献
Imaging of Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders
Semin Ultrasound CT MR. 2020 Jun;41(3):319-331.
DOI: 10.1053/j.sult.2020.02.006
PMID: 32448488
NMOSDの画像所見(review)
視神経/視交叉
視神経や視交叉のT2高信号と造影効果.
慢性期では,視神経は萎縮する.T2での信号は様々である.
MSでの視神経炎は,典型的には片側性である.
NMOSDでは,長い病変で,両側性同時あるいは順次に障害される.眼球~視交叉間の半分以上を障害し,視索まで広がることもある.日本からの最近の報告では,60%が片側性視神経炎である.
視神経萎縮と腫脹はNMOSDとMSで同頻度に認められる.
脊髄
長大性のT2高信号病変を特徴とする.
急性期では,T1低信号を認める.(MSでは少ない)
慢性期ではMS,NMOSDともT1低信号となる.
長大性病変(longitudinal extensive transverse myelitis:LETM)
NMOSDでの脊髄炎では,3椎体以上の長さのLETMを特徴とする.
しかし,15%ではそれよりも短い脊髄炎(short transverse myelitis)を生じ,MSに類似する.
症状発症から画像検査までの期間が,脊髄病変の長さに影響する.慢性期のNMOSDでは病変は短く,脊髄の萎縮と軟化症(myelomalacia)が混在している.従って,短い脊髄炎でNMOSDを除外することはできず,さらに精査をすべきである.
NMOSDでは,頸髄病変より胸髄病変が生じやすい,MSでは頸髄と胸髄が同程度に障害される.
横断像では,脊髄の中央部(central)に病変ができる傾向がある.片側性や辺縁性(peripheral)の病変も生じうる.
病変の>70%が脊髄の辺縁部にある場合は,他の鑑別疾患を考える必要がある.
はじめに線状の病変となっている場合,後に長大性病変となりうる.
MSよりも脊髄萎縮や腫脹を生じやすい.
Bright Spotty Sign
NMOSDの急性期脊髄炎の所見と考えられる示唆される.NMOSDの27~90%でみられる.
T2水平断で非常に高信号なspotsとしてみられ,flow-voidは伴わない.周囲の髄液と比べてT2 iso~high,T1では髄液と比べてT1 high(T1 lowとなる脊髄空洞症と鑑別点).
この徴候はNMOSDと特発性横断性脊髄炎,MSと,脊髄梗塞を鑑別するのに役立つ.
Ring状造影効果
急性期NMOSDのほぼ全例で,病変辺縁部のpatchyでirregularな造影効果を認める.Ring状造影効果は,closedやopen ring様として定義され,NMOSDの30%でみられる.
この所見は,NMOSDとMSを鑑別するのには不十分な所見であるが,他の原因(サルコイド脊髄炎,脊椎症性脊髄症,硬膜動静脈瘻,脊髄梗塞,傍腫瘍性脊髄症など)によるLETMを鑑別するのに役立つ.
脊髄萎縮
脊髄萎縮はMSと比べてNMOSDのcommonな後遺所見である.MSでは脳萎縮が優位に生じる.
上位頸髄での脊髄萎縮の定量的評価はMSのバイオマーカーや画像アウトカムの指標として使用されたことがある.しかし,NMOSDsでは脊髄萎縮定量評価の有用性はまだ分かっていない.
脳
NMOSDでは24~89%で白質病変を生じる.多くの白質病変は非特異的で,臨床的silentである.小型(<3mm)の白質T2高信号はNMOSDの>80%でみられる.
特筆すべきは,白質病変のうち16%ほどで,Barkhof MS criteriaを満たし,1/3のでMcDonald criteriaのDISを満たすことである.
白質病変の部位
稀であるが,AQP4発現が多い部位の白質病変はNMOSDに特徴的である.
病変部位としては,上衣周囲領域(periependymal lesion),脳梁膨大部領域(callosal splenium region),第三脳室周囲間脳病変(diencephalon surrounding the third ventricle),中脳水道周囲領域(periaqueductal region),脳幹背側(dorsal brainstem)などである.
白質の経路に沿った,3cm以上のtumefactiveな病変も生じうる.
これらの典型的な病変はNMOSDの50%でしかみられない.
これらの領域で,上衣周囲領域が最もcommonである.脳幹背側と中脳水道周囲病変は次いでcommonな病変であるが,これらはNMOSDとMSの鑑別には有用ではない.他の所見としては,tumefactive lesionや間脳病変がより特異性があるが,これらの所見の頻度はNMOSDの10%未満と低い.これらの病変を知っておくことでNMOSD診断,特に,視神経や脊髄病変を欠くNMOSDの診断に役立つ.
NMOSDとMSでは,白質病変がoverlapするため,MSにみられやすい画像所見を見つけることが,これらの疾患を鑑別するのに役立つ.MSに見られやすい所見としては,皮質病変,juxacortical lesions,Dawson’s finger-type lesions(側脳室と直角なovoid periventricular lesions),下側頭葉病変,側脳室に隣接する病変などである.
造影パターン
NMOSDでは造影効果を認める頻度は13~94%である.patchyで不均一(inhomogeneous)な,境界不明瞭(blurred margins)な,””な造影効果を示すことが最も多く,特異的な造影パターンである.
もう一つのパターンとしては,線状の”pencil-like”な病変 あるいは 厚く不規則な上衣周囲の造影効果で,第3脳室・第4脳室・側脳室・中脳水道に沿てみられる.このパターンは疾患早期であることを反映し,急性発作や治療後に改善する可能性がある.
頻度は下がるが,結節状や髄膜造影効果も報告されており,炎症性,感染性,腫瘍性疾患との鑑別を要する.
脊髄のRing状造影効果とは対象的に,NMOSDでは脳でのring状あるいはopen-ring状の造影効果は稀であり,MSを想起する必要がある.
読んだ感想
比較的特徴的な病変も多いのですが,実際は鑑別に悩むことも多いです.
Bright Spotty Signや視神経病変の特徴については,今回初めて知りました.今後は意識的に病変を見たいですね.
とても内容が濃く,頭に入り切らない部分もありました.何度も読み直して頭に入れたいと思います.
本論文には,MOGAD,HIV,小児発症NMOSD,double seronegative NMOSDなど関する内容もあります.また別の機会にまとめてみたいです.