Pearls & Oy-sters: Episodic ataxia type 2
Case report and review of the literature
Neurology. 2016 Jun 7; 86(23): e239–e241.
doi: 10.1212/WNL.0000000000002743
前回まで成人における失調症に関するReview論文を読みました.個人的に勉強不足な疾患も多数ありました.
その中で,反復発作性運動失調症 (Episodic ataxia 2:EA2)は,”もしかしたら日常診療で遭遇していたかも?”と感じたため,今回はEA2に関する論文です.
※本邦では保険適用外の治療についても記載あります.ご留意ください.
前回までの成人における失調症に関するReview論文です↓
Pearls
- EA2は常染色体優性遺伝のCaチャネル異常で,CACNA1A遺伝子変異で生じる.
- 発作は,めまい,複視,構音障害,全身脱力を伴う失調を呈する.
- 発作間欠期には,持続的な眼振を呈する.
- アセタゾラミド,4-アミノピリジンは発作の程度や頻度を軽減すると報告されている.
Oy-sters
- 家族歴(EAや家族性片麻痺など)を認めないことがある.
- 反復性の症状から始まり,進行性の失調に進行する.
- 併存する機能障害が精査をより困難にする.
症例提示
38歳男性
【現病歴】
12歳 めまいを自覚し始めた.
14歳から,反復性に,首から背中へ下降する電撃様の感覚と,その後に両眼性複視,めまい,歩行不安定性,意識混濁,嘔気が生じするようになった.同症状は2~8時間持続した.
その後,構音障害も生じるようになった.発作間欠期には,軽度の複視以外を除いて無症状であった.
長年の間,これらの症状を隠していた.
27歳 母が初めて発作を目撃した.意識混濁し,平衡感覚障害となっていた.救急部へ搬送され,不安に対してジアゼパムと投与され,1~2時間後には通常の状態に改善した.その後,ジアゼパムを継続した.てんかん,不安発作,TIA,機能性障害,詐病などと様々に診断された.
フェニトインが使用されたが無効であった.
TIAによる症状と考え,卵円孔開存閉鎖術を施行した.
最終的には,機能性疾患と考えられ,10年間 追加精査されなかった.
発作頻度は変動し,連日の場合や,月単位,年単位のこともあった.
2ヶ月前に家族に原因不明の死があった.その後から,症状が持続的となったため,受診した.
【家族歴】
なし (周期性の神経症状,歩行障害,片頭痛,てんかんをもつ家族はいない)
【生活歴】
喫煙と大麻を使用している.過去にメタンフェタミン使用歴がある.
【成長発達】
運動の成長は正常であったが,言語と知能の発達は遅れていた.会話は子供のように理解しにくく,学校をやめるまでの間,特別教育を受けた.
【身体所見 (非発作時) 】
hypometric saccades,注視性眼振,軽度の構音障害,指追従でのovershootを認めた.
座位の際に体幹部の不安定性があり,歩行はwide-basedで,継脚歩行ができなった.
認知機能検査では軽度~中等度の前頭葉障害,遂行機能障害,記憶障害,視空間認知障害,言語障害を認めた.MoCA 23/30 点.
【検査所見】
過去に代謝,内分泌,栄養,感染,自己免疫,傍腫瘍性の検査が行われ,除外されている.
髄液検査では蛋白,細胞数,IgG index,オリゴクローナルバンドは正常であった.
過去の脳MRIは正常とされていたが,後方視的には小脳の軽度萎縮を認めた.頚胸椎MRIでは,脊髄に異常を認めなかった.
筋電図は施行しなかった.
遺伝子検査で,CACNA1A遺伝子に欠損を認め,フレームシフトと考えられた.
【その後の経過】
EA2と診断し,対症療法としてアセタゾラミド〈本邦では保険適用外〉が開始された.
Episodic ataxia type2 (反復発作性運動失調症)
歴史背景
1946年 EA2が初めて報告された.
1996年 P/Q type電位依存性CaチャネルであるCACNA1Aの異常であることが報告された.
遺伝
常染色体優性遺伝.
最も多い遺伝性反復発作性運動失調症であるが,100,000人に1人未満の有病率である.浸透率は高いが,100%ではない.
P/Q電位依存性CaチャネルをエンコードするCACNA1A遺伝子の異常.同チャネルは中枢神経全体で発現しているが,特に小脳Purkinje細胞と,顆粒層神経で多く発現している.主に節前神経終末に発現,神経伝達で働く.
CACNA1A遺伝子は80以上の変異が確認されている.多くはナンセンス変異やフレームシフトだが,ミスセンス変異も病的変異である.EA2は小脳でのチャネル異常と考えられる.
CACNIA1A遺伝子は家族性片麻痺性片頭痛1型や,脊髄小脳変性症6型(SCA6)とも関連する.EA2はこれらの疾患と臨床的に重複する.家族性片麻痺性偏頭痛は広範なミスセンス変異で生じるとされる.SCA6は,CAGリピート延長で生じる.
臨床的特徴
5~20歳で発症する.
数時間から数日続く失調発作を生じる.
はじめは反復性の発作を生じるが,症例によっては二次性進行性の失調へ進行する.
発作
失調単独の場合や,広範な神経症状を呈することもある.時に,脳幹部に局在を有する症状を呈する.全身性や片側性の筋力低下,片頭痛,知能障害,ジストニア,痙攣などの特徴も伴う.
身体的精神的なストレスが引き金になる.
症状はばらつきが大きい.
発作間欠期
しばしば間欠期に眼振を伴う.
他の反復発作性運動失調症との比較
発症年齢,発作持続時間,間欠期の眼振,原因遺伝子などが異なる.
(EAはtype7,8などもあるようです)
治療
アセタゾラミド〈保険適用外〉に反応することが本疾患の特徴である.しかし,無効な症例もある.アセタゾラミド250~1,000mg/日の投与で,50~75%の症例で発作重症度や頻度が改善する.
本例ではアセタゾラミド1,000 mg/日の投与で腎結石を生じた.一旦中止し,少量で再開した.
アセタゾラミド継続困難な場合は,カルシウムチャンネルブロッカーである4-アミノピリジン〈保険適用外〉を5mg1日1回投与も発作頻度改善効果がある.