Bright tongue sign in patients with late-onset Pompe disease.
(RJournal of Neurology)
J Neurol. 2019 Jun 29. DOI:http://dx.doi.org/10.1007/s00415-019-09455-1.
遅発性Pompe病でのBright tongue sign
脳MRIで舌も観察する,という発想に感心しました.
Bright tongue signについては初めて聞いた用語でした.後述しますが,最近の用語ではなく,以前から提唱されていた用語のようで,ALSで見られる所見として報告されていたようです.本研究は遅発性Pompe病でもよく見られる所見として報告されています(Pompe病に特異的な所見,という結果ではありませんでしたが).
Bright tongue sign陽性・舌萎縮あり→
Bright tongue sign陰性・舌萎縮なし→
Method
対象
2006年7月から2016年7月まで,OHSU ALS and Neuromuscular Disease Centerを受信した症例が対象.
遅発性Pompe病(late‑onset Pompe disease:LOPD),筋萎縮性側索硬化症(ALS),原発性側索硬化症(PLS),封入体筋炎(IBM),筋強直性ジストロフィー(MD),眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD),顔面肩甲上腕型筋強ジストロフィー(FSHD)の患者が対象(比較的commonな疾患で嚥下障害を生じやすい疾患であるため)
頭痛や意識障害,CIDP,MG,末梢神経障害,LEMS,POEMS,てんかん,MSなどにたいして 頭部MRIを施行した36例のControlとした.
脳MRI評価
神経放射線医が診断名を知らない状態でMRIを確認した.T1矢状断で舌の形状,容積,位置,内部構造などを観察した.
舌T1高信号の有無や,萎縮の有無を評価した(MRIで舌全体が撮影できなかったので,容積は評価困難であった).
口を閉じた状態でも舌がposterior palateに接していない場合は舌萎縮と判定した.
Results
症例
35例 (LOPD:6例,bulbar-onset ALS:9例,limb-onset ALS:3例,PLS:3例,FSHD 1例,IBM:4例,MD type1:4例)でT1矢状断の画像が撮影されていた.2例が評価ができない画像のため除外.
MRI findings
全例で頭部MRI(1.5T)を施行.
11/33例で舌異常を認めた.そのうち1例が放射線医のレポートで異常を指摘された.
Late‑onset Pompe patients
全例で発症・診断後にMRIが施行された.
4/6例で異常信号,2/6例で舌萎縮.
1例で嚥下障害の自覚があるが,構音障害はなかった.症例数が少ないため罹病期間との関連性は評価困難.
ALS (17例)
全例で発症後にMRIが施行された.
Bulbar onset ALS:9例が(うち1例がアーチファクトで評価困難).2/8例で舌信号変化,4/8例で舌萎縮.舌EMGは全例で異常あり.
Limb-onset ALS:8例.1/8例で軽度T1高信号 (MRI時には球症状あり).
FSHD
1例のみ異常あり.
DM
1例で萎縮とbright tongue.別の1例でbright tongueのみ.
PLS,IBS
異常なし.
OPMD
評価できる画像なし.
Control (36例)
全例で萎縮や信号変化なし.
1例で舌がposterior palateに接していなかったが,MRI時に開口していた.
Discussion
通常,舌は楕円形で口腔内全体を占め,posterior palateに当たっている.粘膜面に平行な2本の腺がある.
本研究では,Pompe病症例の多くでbright tongue signを認めた.
筋力低下の場合,頭部MRIをよく施行するが,舌の異常に気づくことが診断の手がかりとなる.
MRIでの舌の異常はLOPDに特異的では無く,ALSやMD type1などでもみられる.
本研究から,神経筋疾患患者でルーチンの脳MRIを推奨するものではないが,他の理由で行ったMRIで舌の異常を認めた場合には神経筋疾患を疑う手がかりになりうる.
感想
脳MRIでの舌は,確かに撮影範囲に入っていても着目しないことが多い.撮影自体は,脳MRIを撮影する際にT1矢状断も含めて撮ればよく,比較的簡便に検査可能.
また,本報告ではControl群の全例で異常を認めなかったため,疾患特異的ではないにしても何らかの神経筋疾患を示唆する所見としては特異度はありそう.
舌萎縮に関してはMRI中に口を閉じていることが必要条件になり,撮影時に注意が必要.舌信号変化については観察者のimpressionにも左右されるかもしれない.
それでも,比較的簡単に行える検査(場合によってはルーチン撮影でも評価できる)ため,今後是非,舌にも着目してみたい.
その他
過去文献を探したら,以前にもbright tongue signについては幾つか報告があった.
ALSにおける所見として報告されていたり,Pompe病でみられる所見と報告されていたりしている.
- “Bright tongue sign” in ALS | Neurology (2012)
- Bright tongue sign: a diagnostic marker for amyotrophic lateral sclerosis. – PubMed – NCBI (2014)
- Bright tongue sign in Pompe disease. – PubMed – NCBI (2016)
今回の文献でもPompeに特異的な所見ではないと考察しており,何らかの神経筋疾患で生じる所見と考えるのが良いのであろうか.
その他,Pompe病症例で,舌の仮性肥大により舌のbenign tumorとしてとらえられた症例もあった.↓