Alcohol-related peripheral neuropathy: a systematic review and meta- analysis (Journal of Neurology)
J Neurol. 2018 Nov 22.
DOI:https://doi.org/10.1007/s00415-018-9123-1
アルコール性ニューロパチー:系統的レビューとメタアナリシス
87の既報告を元にした,アルコール性ニューロパチーに関した系統的レビューとメタアナリシス.
前半は有病率,リスクファクター等について触れました.今回はその続きになります.
後で見返したところ,前半で載せるはずの”臨床像”と”神経伝導検査と筋電図”の部分を載せ忘れておりました.順番が前後してしまいますが,今回載せます.
前半はこちら↓
臨床像
- 緩徐進行性,月~年単位で進行する.
- 常に下肢優位で遠位優位.
- 感覚症状が主体で,しびれや感覚低下,振動覚障害を呈する.固有感覚障害は少ない.
- 運動症状も生じ,その多くは筋力低下.頻度は少なく,上肢では非常に稀.腱反射低下や消失はよくみられる.
- 少数のstudyで有痛性感覚障害が報告されている.統合解析での有痛性感覚障害の頻度は 42% (CI 29–56%, n = 325).
神経伝導検査と筋電図
- 神経伝導検査では,通常,下肢優位に異常を認める.
- 4つのstudyで感覚神経のみで異常を認めたが,10のstudyで運動感覚とも異常を認めた(重症度の違いによる影響で,運動神経はより後期に障害されると考えられる).
- 異常所見としては,振幅低下で,軸索障害を示唆する.
- H波とF波の潜時は延長すると報告がある.
- 針筋電図ではrecruitment低下を認める.活動性脱神経(positive wavesとfibrillations)も多くの症例でみられる.下肢で脱神経所見がみられやすく,length-dependent patternが示唆される.
- 筋電図は正常との報告もある(早期で感覚障害優位であるためと考えられる)
- 短線維筋電図では繊維密度増加を認め,高い再神経化を示唆する所見と考えられる.
生検病理
- 病理所見は報告ごとに異なり,バリエーションが多い.
- 多くの報告では,軸索変性が報告されている.少数だが,脱髄と再髄鞘化の所見もみられた.
- 重度の有髄線維の脱落が特徴であるが,小径繊維の脱落もみられる.小径繊維と大径繊維両方の障害がみられるが,小径繊維の脱落が優位である.
- アルコール性有痛性ニューロパチー患者の腓腹神経病理18例を観察した研究では,罹病期間が短い症例では小径有髄繊維脱落が優位で,5年以上の罹病期間では小径繊維に加え,大径繊維障害もみられることが報告されている.
- 表皮の神経線維密度を評価した研究では,下肢遠位優位に神経密度低下を認め,length-dependent patternであった.
- 相反する報告もあり,さらなる研究が必要である.
炎症の役割
- 血清中の炎症性サイトカインを測定した研究では,TNF-α と MCP-1は健常人と差がなかったが,GRO-αはアルコール性ニューロパチー症例で有意に高かった.
- GRO-αは炎症(一次性炎症,二次性炎症)に関与し,白血球遊走因子として働き,腫瘍形成にも関与するとされるが,アルコール性ニューロパチーの病態に関与しているかどうかは明らかではない.
酸化ストレスの役割
- 酸化ストレス蓄積のマーカーであるNε-Carboxymethyllysine (CML)の免疫組織化学的検査を行った研究では,アルコール性ニューロパチーでは腓腹神経周囲にCMLを認め,神経周膜のバリア機能障害が病態と推測された.
治療
禁酒
- 禁酒を行った症例では,感覚症状が数週間で改善し週~月で筋力も改善した.重症な症例では改善に2年を要した.しかし,振動覚や痛覚障害,アキレス腱反射消失は完全には改善しなかった.
ビタミン
(種類によっては本邦では保険適応外の薬もあります)
- RCTを行った研究では,ビタミン投与群(B1,2,6,12 ± 葉酸)が,プラセボ群より,6~12週時点で二点識別覚・振動覚・疼痛が改善し,12週時点で失調・アキレス腱反射が改善した.ビタミン投与群では,葉酸の有無で効果に差はなかった.
- ベンフォチアミン(B1誘導体)を使ったRCTでは,ベンフォチアミン単独vs ベンフォチアミン併用ビタミンB群 vs プラセボ で,8週後の振動覚,疼痛,遠位での触覚,失調,腱反射等を比較した. ベンフォチアミン併用ビタミンB群vs プラセボ群では有意差なし.ベンフォチアミン単独が有意に改善し,副作用も認めなかった.ベンフォチアミンの効果を実証したが,なぜビタミンB群の併用では効果がなかったのかは不明である.
- 食事に加え,ビタミンB1の筋注を行った研究では,改善効果はニューロパチー重症度や重度肝硬変の有無が関与していると報告された.ビタミンB1投与で反応しなかった症例のうち,ニコチン酸低下,パントテン酸低下,ビタミンB6低下を認めた症例では,それらの補充で改善が得られており,ビタミンB1以外の欠乏時は他因子の補充も有用であるとされた.
- これらの報告から,ビタミン投与は機序は明らかではないものの治療効果がある.機序については,併存するビタミン欠乏性ニューロパチーの改善が関与している可能性がある.
Conclusions
- 慢性アルコール多飲者の44%で,アルコール性ニューロパチー症状や所見を伴い,ポリニューロパチーの10%を占める.無症候性のアルコール多飲者に神経伝導検査を施行すると,頻度はさらに増える.
- 疼痛の発現頻度は42%(小規模の研究を元にしたので解釈に注意)
- 軸索障害,length-demendent,感覚優位の感覚運動性ニューロパチーが主体である.
- total lifetime dose of ethanol (TLDE)が最も有効なリスク因子である.他のリスク因子としては,アルコール摂取の状況,アルコール多飲の家族歴,男性,ALDH2変異などがある.
- 肝障害や低栄養(特にビタミンB1欠乏)が病態に関与すると報告あり.アルコール毒性とニューロパチーへの影響や,他のリスクファクターについては,十分に解明されておらず,さらなる研究が必要である.
- 治療については十分な報告は少ないが,ビタミン投与が最もエビデンスがある.〈種類によっては本邦で保険適応外の薬もある〉
- ニューロパチー評価や重症度評価には神経伝導検査が有用である.ルーチンで上下肢の神経伝導検査を行うことが勧められる.
- small fiber neuropathyに関する研究は少ない.今後の研究が待たれる.