How to do it: investigate exertional rhabdomyolysis (or not)
Pract Neurol 2019;19:43–48.
DOI :10.1136/practneurol-2018-002008
運動誘発性横紋筋融解症をどのように診るか
今の時期では,炎天下での運動や仕事をした際の,熱中症+CK上昇 が最も多い横紋筋融解症のパターンでしょう.これらの状況がはっきりしている場合は診断を迷わないと思います.それでも,「もしかしたら何らかの背景疾患があるのでは?」と少し疑ってしまうのが神経内科の性でしょうか…
本論文は,運動誘発性横紋筋融解症の原因/リスクと,代謝性ミオパチーを疑うポイントが重要な部分と思い,今回取り上げます.
治療や代謝性ミオパチーの各論についても載っていますが,ごく簡単な内容にとどまるため,今回は省略しました.
横紋筋融解症の原因
運動誘発性と非運動誘発性とに分けられる.
非運動誘発性の原因
- 薬剤:アンフェタミン,コカイン,シクロスポリン,フィブラート,イソニアジド,リチウム,神経筋遮断薬,プロポフォール,クエチアピン,スタチン,ジドブジン
- 中毒:アルコール,重金属,蛇毒
- 代謝性:アルコール離脱,電解質異常,甲状腺機能低下症,セロトニン症候群,てんかん重積
- 炎症性:皮膚筋炎,多発筋炎
- 感染:コクサッキーウイルス,EBウイルス,インフルエンザウイルス,HIV,マラリア,破傷風,他のウイルス
- 局所の筋障害:クラッシュ症候群,コンパートメント症候群,筋虚血
運動誘発性の原因
- 熱関連筋障害:熱中症,熱射病など
- 代謝性ミオパチー:糖原病,脂肪酸代謝異常,ミトコンドリア病,Structural myopathies(例:ジストロフィン異常など)
運動誘発性横紋筋融解症
- 運動後にCKが上昇することはよくみられ,その半数で無症候性である.
- マラソン24時間後の平均CKは,男性で3,322 IU/Lm女性で946 IU/Lと報告されている.
- 臨床的に問題となるCK値は不明である(腎障害を生じるCK下限値は6000 IU/Lと報告された.しかし,5000 IU/Lとする報告や,下限はないとする報告もある)
- 実臨床上は,CK>5000 IU/L and/or 臓器障害(ミオグロビン尿症,肝腎機能障害など) が診断する.
- 多くの運動誘発性横紋筋融解症は熱関連障害(熱中症など)で生じる.
リスク因子
- 発症前の体調,男性,アフリカ人種,脱水,高強度で長時間の負荷運動(特に筋肉の強収縮,筋が進展している状態での収縮負荷≒下り坂を走るなど),環境因子(気温上昇,衣服),血管収縮薬(アンフェタミン)などがリスクとなる.
- 他にも,肥満 (HR 1.39, 95% CI 1.04 to 1.86),喫煙(HR 1.54, 95% CI 1.23 to 1.94),向精神薬(HR 3.02, 95% CI 1.34 to 6.82),スタチン(HR 2.89, 95% CI 1.51 to 5.55),鎌状赤血球症などもリスクとなる.
- NSAIDsはリスクは運動誘発性横紋筋融解症を増やさなないが,通常より運動耐容能が上がるため,急性腎障害のリスクは上がる.
検査
- 多くの場合は明らかに熱中症などが先行するため,追加精査を要さない.
- 熱への曝露がない場合や,再発性の運動誘発性横紋筋融解症の場合は追加精査を行うべきである.
- 過去に,運動後の筋痛や筋力低下,尿の色調変化などなかったか確認する.代謝性ミオパチー症例のほぼ全例は,10代の頃から症状がある.
- 下記を認める横紋筋融解症は追加精査を考慮する(RHABDO)
R—Recurrent episodes of exertional rhabdomyolysis(再発性)
H—HyperCKaemia more than 8 weeks after event(高CKが8週以上持続)
A—Accustomed to exercise(運動に慣れいている人)
B—Blood creatine kinase (CK) concentration above 50× upper limit of normal(正常上限の50倍以上にCKが上昇)
D—Drug ingestion insufficient to explain exertional rhabdomyolysis(原因となる薬剤なし)
O—Other family members affected or Other exertional symptoms(家族歴や他の運動時の症状がある)
- チャネル病,RYR1遺伝子変異を伴う悪性高熱症なども運動誘発性横紋筋融解症を生じることがある.
- ACE,ACTN3,CCL2,CCR2などの遺伝子変異でも労作性横紋筋融解症の原因となる.これらの遺伝子異常でも平均以上の運動能力があり,運動能力と労作性横紋筋融解症のリスクはトレードオフの関係にあることが示唆される.
遺伝子検査
- Sheffield (UK) centreでは横紋筋融解症や代謝性ミオパチーに間関する30の遺伝子パネルを提供している(16週かかる.費用は£900).PYGM (McArdle病), PFK (Tarui病) ,糖原病,脂肪酸,ミトコンドリアなどの遺伝子を含む.
運動時熱耐容能検査
(Exercise hear tolerance test→運動時熱耐容能検査? 適切な日本語が分からず…)
- 兵士やプロの運動選手に限られる.
- 長時間の静的運動(トレッドミル,運動)を行い,体温をモニタリングする.健常人より体温上昇が早い場合や心拍数が160以上になるなどの場合は陽性(“Failed”)と判定する.
- 有用性に関するエビデンスは限られる.
横紋筋融解症改善後の運動について
- 遺伝子的異常がなければ,再発リスクは少ない.US Army studyでは,1-2%で運動性横紋筋融解症を再発するとされる.一般の人では更にリスクが低いと考えられる.
- 多くの専門科は,段階的に運動を再開することを推奨している.
はじめの1ヶ月や症状消失,CK正常化までは運動を避けるべきである.軽い運動を始め,筋力症状や筋痛がない範囲で徐々に強度や時間を増やしていく.高強度な運動,慣れない運動は最初のうちは避けるべきでありある. - 遺伝子異常がある場合はさらに厳格に管理が必要である.