脳神経内科にとって,ALSは特に重要な疾患です.診断やフォローアップには悩むことが多いです.また,非典型的な経過をたどることも稀ではないように感じます.認知機能低下の合併も診療を複雑にさせる要因の一つと思います.
今回は,ALSにおける,呼吸機能と認知機能の関連性についての報告を取り上げます.タイトルを見て気になったので読んでみました.
Respiratory function and cognitive profile in amyotrophic lateral sclerosis.
Eur J Neurol. 2020 Apr;27(4):685-691.
PMID: 31750604
DOI: 10.1111/ene.14130
筋萎縮性側索硬化症での呼吸機能と認知機能分析(Respiratory function and cognitive profile in amyotrophic lateral sclerosis)
方法 Methods
施設:シドニーのALSクリニック
前向き研究.
症例
Inclusion
- 18歳以上.
- 改定El Escorial基準の probable あるいは definite に該当.
Exclusion
- 評価時に言語や書字などで疎通が十分にとれない状態.
ALSFRS-Rでの機能評価,呼吸機能評価,認知機能評価などの評価を行った.
呼吸機能検査
座位で,努力肺活量(FVC)と一秒率(FEV1)を測定し,3回の平均をとった.
既報告と同様に,病状進行のcut-offを%FVC 75%とした(75%以下を呼吸機能低下,75%より大きい場合を呼吸機能正常とした)
神経心理学検査
Addenbrooke’s Cognitive Examination revised(ACE-R),Addenbrooke’s Cognitive Examination-Ⅲ(ACE-Ⅲ)を施行した.
結果 Results
n=100例 (121例がinclusionされたが,情報不十分のため21例がexclusion)
48例が呼吸機能低下あり(%FVC≦75%),52例が呼吸機能低下なし.
全例でリルゾールが投与されていたが,1例で有害事象のため中止となっていた.
全例で認知機能に関連する投薬は受けていなかった.
呼吸機能低下群 vs 非低下群
- 年齢,性別,発症部位,罹病期間,利き手などに差は無い.
-
呼吸機能低下群で,有意にALSFRS-Rスコアが低い(呼吸機能低下群 vs 非低下群: 37.85± 0.98 vs 42.96±.53, P<0.001).
(ALSFRS-Rの下位項目のいくつかは呼吸機能障害が含まれることも影響している)
- 呼吸機能低下群で,有意にACEスコアが低い(呼吸機能低下群 vs 非低下群:86.83± 1.47 vs 90.68±0.89, P = 0.025).
- 呼吸機能低下群で記憶(Memory)が有意に低い(呼吸機能低下群 vs 非低下群:85.62%±1.98% 92.57%±1.21%, P = 0.003)
- 呼吸機能低下群で注意(Attention)が有意に低い(呼吸機能低下群 vs 非低下群:90.28%±1.78% vs 94.43%±1.13%, P = 0.05)
- 言語流暢性(Fluency)は有意差なし(呼吸機能低下群 vs 非低下群:74.15%±3.03% vs 80.98%±1.27%, P = 0.082)
呼吸機能と認知機能の相関性
- %FVCとACEスコアは有意な相関を認めた(r = 0.276, P < 0.01).
- 下位項目である記憶(r = 0.263, P < 0.01)と言語流暢性(r = 0.250, P < 0.01)も同様に有意な相関あり.
発症部位による差
- bulbar onset群が,limb-onsetより呼吸機能が低下している傾向があった(69.04%±3.52% vs 76.75%±2.31%, P = 0.063)が,認知機能に有意差はなかった(88.41±1.59 vs 89.06±1.03, P = 0.726)
考察 Discussion
認知機能低下の原因としては,ALSによる細胞変性が最も関与しているが,呼吸機能障害による持続的あるいは夜間などの間欠的な低酸素が影響している可能性がある.
認知機能低下しているALS症例は早期のNIV装着の可能性があるため,綿密に呼吸機能検査を行う必要がある.
呼吸障害の治療は,認知機能障害の進行に影響する可能性がある.