前回,高齢発症の両側下垂足を呈した症例報告を取り上げました.
下垂足の診療は一筋縄でいかないことも多々あるように感じます.
そこで,今回は下垂足の診療について文献をいくつか読んで,自分なりにまとめてみました.
※いつものごとく,問診・診察・鑑別疾患を主に取り上げ,治療については省略しています.
※下記に記載してあるデルマトームや筋節は,文献や書籍によっては異なる内容が記載されているかもしれません.ぜひ成書を参照ください.
下垂足へのアプローチ
下垂足での問診/病歴聴取
- 総腓骨神経障害と関連する病歴, 因子:
(下垂足で最も多い原因は総腓骨神経麻痺である)
習慣的な足組み,習慣的あるいは長時間に及ぶスクワット姿勢や膝立ち,寝たきり状態,下肢装具や膝以下にギブスを装着,手術中の下肢支持,その他腓骨頭への圧迫.
最近の体重減少(slimmer’s palsy),脛骨神経の過伸展(足関節の変形や長時間の下肢の引き伸ばし),膝窩の占拠性病変(例: Baker嚢胞),外傷(腓骨頭骨折など),手術の有無. - ニューロパチー, 多発単神経炎と関連する因子:
糖尿病,アルコール,ビタミンB12欠乏,化学療法.
(しかし, これらの因子で急性発症の下垂足単独を呈する可能性は低い)
下垂足での身体所見
- 下肢の視診:
腫脹や紅斑はないか確認する.外傷やコンパートメント症候群が示唆される可能性がある.
fasciculationの有無を確認する(MNDなどの,より広範な神経障害が疑われる.上肢も確認する) - 筋力評価:
・足関節背屈と外反(腓骨神経)
・足関節底屈と内反(脛骨神経)
・股関節外転(上臀神経,L5神経根)
股関節外転はL5神経根症と腓骨神経障害を鑑別するのに役立つ(陽性適中率 95%,陰性適中率 90%) - 腱反射・病的反射:
膝蓋腱反射とアキレス腱反射,足底反射を確認する.
腱反射亢進やBabinski徴候は上位運動ニューロン障害が示唆される.
(参考までに後脛骨反射も確認する) - 下肢の感覚診察:
感覚障害が第1,2指間に限局する場合は,深腓骨神経障害が示唆される.
下腿前外側と足背の感覚障害は浅腓骨神経障害が示唆される. - 総腓骨神経の走行を触診:
圧痛やTinel徴候の有無,膝窩部の病変有無を確認する. - 歩行を観察:
踵歩き,つま先歩きを診る.踵歩きが困難になる.
Trendelenburg徴候,動揺性歩行の有無を確認する(近位筋筋力低下)
steppage gaitは重度の足関節背屈障害を示唆する.
- 腓骨神経単麻痺では,足背屈and/or外反のみ筋力低下を生じ,腱反射は正常で,下肢痛や腫脹,紅斑などはみられない.
下垂足での検査
電気生理学的検査
- 確立された感度のよい手法である.
- 錐体路障害,神経根障害,末梢神経障害の鑑別に有用である.局在や,重症度などの情報が得られる.
- 神経伝導検査では,伝導ブロックを生じる.病変より起因にの刺激では,遠位での刺激より反応が弱い.
- 感覚神経検査は,節前障害と節後障害の鑑別に役立つ.例えば,神経根障害と神経叢障害/末梢神経障害などの鑑別に有用である.
- 腓骨神経やL5デルマトームでのSEPや,MEPが有用であることもある.
画像検査
- 大脳や脊髄による下垂足を診断する上で,画像検査は重要である.末梢神経障害においても,正確な局在や形態の確認に有用である.
- MRI や MR neurography.
- 神経エコーは非侵襲的で費用対効果が良い検査である.
下垂足の原因/鑑別疾患
足関節背屈に関係する運動経路(中枢から末梢まで.あるいは多発性の障害)のいずれの部位での障害でも下垂足を生じうる.
障害部位を可能な限り正確に調べることで,治療や予後評価を行うことが重要である.
中枢性による下垂足
- 中枢性病変では,広範な麻痺の一部分として下垂足がみられる.
- 大脳病変による中枢性下垂足は,感覚障害を伴わず生じることがある.前大脳動脈領域の梗塞や下垂足で生じうる.稀に中大脳動脈領域の梗塞でも下垂足を生じるが,感覚運動性の片麻痺呈し,下垂足単独よりも上肢の障害の方が強い.
- 脊髄病変は,運動性,感覚性,自律神経障害など,幅広い臨床像を呈する.まれに,運動障害単独で生じうるが,この病型はポリオや,脊髄性筋萎縮症,ALS,遺伝性痙性対麻痺などで生じる.障害高位は,筋やデルマトームなどから結論付けられる.
脊髄神経根障害での下垂足
- 文献では,椎間板性下垂足の発生率は様々である.
最近のretrospectiveな研究では(2018年),L5椎間板ヘルニアの23%で下垂足を生じると報告した. - L5神経根障害では下垂足だけでなく,中臀筋の麻痺も伴うため,Treendelenburg徴候を呈し,典型的には動揺性歩行となる.
- L5障害での感覚診察は,大腿外側と下腿前面,足背の感覚低下を生じる.しかし,デルマトームが重複するため,診察所見は決定的とはならない.
- 足関節は背屈筋は多髄節支配であり,完全な下垂足は,L5神経根症よりも腓骨神経麻痺を示唆する.
- 片側性の後脛骨筋反射(tibialis posterior reflex.L5)の消失が神経根障害を示唆する.この反射は健常人でも消失しうるため,健側と患側を比較することが重要である.(他文献にもあたったが,後脛骨筋反射に関する詳しい情報なし…)
末梢神経障害での下垂足ー坐骨神経/総腓骨神経/深腓骨神経
末梢神経どの部位の障害でも下垂足を生じうる.
-
坐骨神経障害:
総腓骨神経麻痺に加えて,大腿~下腿背側の痛みを伴う.
障害の程度に応じて,足趾屈曲障害,膝屈曲障害,足底,足背,下腿外側の感覚障害,アキレス腱反射消失などを伴いうる. - 総腓骨神経障害:
下垂足を生じる原因で最も多い.加えて,腓骨神経麻痺は成人のmononeuropathyの15%を占める.
足関節の外反と背屈が障害される.下腿外側から足背にかけて感覚障害がみられる(母趾と示趾の間の領域も含まれる).
腓骨神経近傍の占拠性病変で多いのは,膝関節あるいは脛腓関節から生じるガングリオンである.
既報告によると,下肢外傷の1.8%で神経障害を生じ,腓骨神経が56%で最も多かった.他の原因としては,医原性の障害があり,典型的には骨接合術や関節鏡手術などで生じる. - 深腓骨神経障害:
足関節外反障害を伴わない下垂足を呈する.
感覚障害は,母趾と示趾の間の領域に限局する.
下垂足を生じるその他の原因
代謝性疾患や神経変性疾患,炎症性疾患なども下垂足を生じうる.
今回参考にした論文
One thought on “下垂足へのアプローチの仕方について (問診,診察,鑑別疾患)|神経内科の論文学習”