最終更新 2020年10月9日
最近やけに忙しく,久しぶりの更新になりました.
論文はあれこれ読んでいましたが,なかなか紹介する時間がとれませんでした.いくつか勉強になった論文があるので,後日少しずつ紹介できればと思います.
今回はパーキンソン病(Parkinson disease:PD)診断における迷走神経超音波検査の活用についてです.
結論から言うと,今回読んだ論文では,PD診断における超音波検査の有用性は証明できませんでした.しかし,本論文のみでは,まだ結論付けられないかと思いました(実際,他の論文では有用性が示唆される報告もあるようです).
また,”この検査手法なら自分でも測定できそうだ”,と感じ,少し興味が湧いたため,取り上げてみました.
目次
今回の論文
パーキンソン病の診断における迷走神経超音波検査の有用性
Ultrasonography of the Vagus Nerve in the Diagnosis of Parkinson’s Disease
Front Neurol. 2018; 9: 525.
doi: 10.3389/fneur.2018.00525
PMID: 30034363
論文概要
背景
パーキンソン病(PD)では,早期から迷走神経背側核が変性すると報告されている.迷走神経背側核の変性が非運動症状と関連する.
PD症例での迷走神経面積に関する先行研究があり,有意に低下するとする報告もあれば,有意な低下はなかったとする報告もある.PDでの迷走神経の変化はまだ明らかではなく,本研究ではPDと健常人で迷走神経径の比較を行った.
方法 Methods
対象
PD群 20例 (罹病期間中央値 4.0年(25-75%tile=1.0-6.25),男女比1:1,MDS-UPDRSⅢ中央地25.0(25-75%tile=21.3-32.8))
Control群 20例(年齢/性別をマッチさせた健常例) .
超音波検査の検査の手法
リニア6-12Hz,深さ(depth)~3.5cm,Bモード.
被検者はベッドに仰臥位となり,首を後屈させる.
胸鎖乳突筋の中間部より数cm頭側の位置,迷走神経横断面で迷走神経を確認する.
縦断面にして,頸動脈分岐部より数mm近位で測定する.
左右の迷走神経の径を測定する.左右の径から,迷走神経平均径を計算する.さらに,左右のより小さい径の迷走神経径をnarrower VN径とする.
結果 Results
PD群とControl群で,迷走神経平均径で有意差なし.(mean 1.17 mm(95%CI=1.10–1.24) vs 1.13 mm(1.07–1.18), p=0.353)
PD群とControl群で,narrower VN径に有意差なし.(mean 1.11 mm(95%CI=1.02–1.20) vs 1.07 mm(95%CI=1.02–1.13), p=0.421)
迷走神経平均径ではPDとcontrolsを区別することはできなかった.(AUC=0.588, 95% CI = 0.408–0.767, p = 0.344)
narrower VN径も同様にPDとcontrolsを区別することはできなかった.(AUC = 0.578, 95% CI = 0.396–0.759, p=0.402)
PD群では,平均迷走神経径とnarrower VN径は,年齢,罹病期間,MDS-UPDRSⅡ/Ⅲと相関なし.
論文を読んでみた感想
個人的に,このような既存の検査方法を用いて診断を試みる研究は非常に興味があります.
頸動脈エコーの経験がある人は論文内のエコー画像ですぐに分かると思いますが,エコーでVNを描出するのは難しくないように思います(私もあまり気づいていませんでしたが,頸動脈エコーをしている時に,すでに迷走神経も映っているのですね).技術的には比較的容易な手法なのかと感じました.
本研究は残念ながら迷走神経エコーでPDと健常群を区別することはできませんでした.しかし,既報告ではVN面積が健常群よりPDで小さかったという報告や(Tsukitaらの報告,Walterらの報告),有意差はなかったとする報告があるようです(Fedtkeらの報告).
本論文に感じたこととしては,PDの診断基準は何だったのか,連続症例なのかどうなのか,など記載が見当たりませんでした.Inclusion criteria,Exclusion criteriaなどあったのでしょうが,記載がなく,バイアスなどなかったのかなと疑問を感じました.
神経径についても0.1mm単位(あるいは0.01mm単位?)での測定なので,どこまで正確に測定できるものなのか.検者内/間信頼性はどの程度なのでしょうか.
本論文で結論は決められず今後の報告も期待したいところです.
備忘録
年齢と迷走神経面積の相関についての論文
→相関ありとする論文(Sonographic evaluation of the vagus nerves: Protocol, reference values, and side-to-side differences),相関なしとする報告(Cross-sectional area reference values for nerve ultrasonography)
One thought on “パーキンソン病の診断における迷走神経超音波検査の有用性”