脳神経内科が免疫チェックポイント阻害剤を投与することはほぼありませんが,副作用を診療することは稀にあります.
今回はJAMAから,免疫チェックポイント阻害剤関連の脳炎に関する pooled case seriesの報告を読みました.
目次
今回の文献
Encephalitis Induced by Immune Checkpoint Inhibitors: A Systematic Review
JAMA Neurol. 2021 Mar 15.
PMID: 33720308
DOI: 10.1001/jamaneurol.2021.024
方法
免疫チェックポイント阻害薬関連自己免疫性脳炎のpooled case series研究.
2000年6月~2020年4月17日までの期間.
PubMed等で検索.結果
82症例
40%はPD-1単剤,32%はPD-L1単剤,9%はCTLA4.20%は2剤併用療法.
発症時期
免疫チェックポイント阻害剤を最初に投与から発症までの平均中央値 8週 (IQR 3-16.5週)
21%は初回投与後に発症した.
12%は投与後6ヶ月後に発症し,2%は12ヶ月後に発症した.投与中止後1,4,15ヶ月後に発症した症例もある.
脳炎のタイプ
限局性脳炎(辺縁系脳炎 22%,辺縁系外脳炎 26%)
髄膜脳炎症候群(44%)
分類不能 9%.髄膜脳炎症候群では,意識障害があり,およそ半数で発熱,頭痛を伴った.
限局性脳炎では,辺縁系の症状(記憶障害,異常行動,正確変化)を呈する.症例によっては脳幹部症状を伴うこともある.複視,眼球運動異常,過食症(hyperphagia),意識障害などを生じた.
まれに,小脳や基底核,脳脊髄を巻き込み,小脳失調,舞踏,四肢の筋力低下などを辺縁系外脳炎を呈する症例もある.
発熱や言語障害はまれであった.
限局性脳炎と髄膜脳炎で痙攣やdemographic,腫瘍の特徴で差はなかった.
髄液所見
ほぼ全例で細胞数増多and/or蛋白上昇がみられた(98%).
83%でリンパ球性細胞数増多を認めた.限局性脳炎では有意に細胞数が少なかった.
85%で髄液蛋白上昇を認めた.非限局性脳炎は限局性脳炎より髄液蛋白が高かった.14%で髄液糖軽度低下を認めた.オリゴクローナルバンドは10/26例で陽性.
ROC解析で髄膜脳炎と限局性脳炎を鑑別するcutoff値を検討.
髄液細胞>18 cells/μL は感度71%,特異度72%.
蛋白>0.0096 g/dL は感度71%,特異度 64%.MRI所見
1回目のMRIで診断的な所見が得られたのは55%のみ.
MRIでの異常所見の多くは限局性脳炎で見られた(限局性脳炎 vs 非限局性脳炎:71% vs 36% P=0.004)
非限局性脳炎でみられたMRI所見は,髄膜造影効果や脳実質の多発性散在性のFLAIR高信号領域などである.自己抗体
79%で自己抗体の検査が行われた.
そのうち,37%で血清and/or髄液中で自己抗体が検出された.
抗体のうち,71%が細胞内抗原に対する抗神経抗体,13%が細胞内抗原に対する非抗神経抗体,13%が神経細胞表面抗原に対する抗体であった.
4例では免疫チェックポイント阻害剤投与前に採取された血清で陽性となっていた.
アウトカム
※予後良好:改善~完全寛解.予後不良:改善なし~死亡.
多くは予後良好であった(45%が完全寛解,31%が改善,不変~悪化 11%,死亡13%)
髄膜脳炎症候群ではほぼ全例が予後良好.
限局性脳炎以外の病型や,自己抗体陰性の限局性症候群は予後が良かった(89%).限局性脳炎は41%で予後不良であり,そのうち81%は抗神経抗体が検出された.
自己抗体陽性症例のうち,抗GAD抗体や抗細胞表面抗原抗体陽性例は予後が良かった(100%).他の自己抗体は予後不良絵だった.
単変量解析では,脳転移,発熱,髄液細胞数増加,髄液蛋白上昇,非限局性症候群は予後が良かった.一方で,MRI異常や,限局性症候群,抗神経抗体陽性は予後が悪かった.
多変量ロジスティック解析では,独立して予後と関連する因子はなかった(すべてのデータが揃っていた症例は58例しかいなかったためと考察されている)
治療ごとの予後は有意差を認めず.
読んだ感想
症例数が82例であり,まだ症例蓄積が少ない領域なのだなと感じました.
限局性脳炎,髄膜脳炎などの分類が記載されておりました.単に”免疫チェックポイント阻害剤関連脳炎”と考えるだけでなく,病型も考えることの重要性を感じました.
個人的に重要だと思ったポイント
- 限局性脳炎(辺縁系,非辺縁系)と髄膜脳炎の2種類に大別できる.
- 臨床病系,脳脊髄液,画像検査,自己抗体の有無・種類などが予後と関連する可能性がある.