最終更新 2022年3月18日
ニューロパチーは一筋縄では診断にたどり着けない症例が多いように思います(自分の周りだけでしょうか…?).その中でも,CIDPや遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスは確実に押さえておきたい疾患でしょうか.
今回は,遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスのスクリーニングとして提唱された複合スコアに関する研究を読んでみました.
目次
今回の文献
遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスのスクリーニングとしての複合スコア
A compound score to screen patients with hereditary transthyretin amyloidosis
https://link.springer.com/article/10.1007/s00415-022-11056-4
研究の目的
軸索型ニューロパチーでTTRスクリーニングを行う症例か選定するための最適なスコアを作成する.
方法
イタリアの2施設のトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(ATTRv )と慢性特発性軸索性ポリニューロパチー(CIAP:chronic idiopathic axonal polyneuropathy)を後方視的に解析した.
ATTRv症例の定義
- 軸索障害性ポリニューロパチーがある.
- TTRでのpathogenic variantを認める.
CIAP症例の定義
- 6ヶ月以上の軸作性 感覚-運動ポリニューロパチー.
- TTR遺伝子変異やそれ以外の明らかな原因を認めない.
- 家族歴や遺伝性ニューロパチーを疑う所見(例:pes cavus)を認めない.
- 代謝性(糖尿病,肝腎機能,甲状腺障害)や欠乏症(ビタミンB1, B6, B12),中毒性(アルコール,神経毒,化学療法),免疫異常(リウマチ性,傍腫瘍性,セリアック病),血液疾患(パラプロテイン血症,ALアミロイドーシス,PEMS症候群),感染性(HBV, HCV, HIV)などの原因を認めない.
電気生理学的検査
- 運動神経:正中神経,尺骨神経,脛骨神経,腓骨神経のCMAP, 遠位潜時(DML),運動神経伝導速度(MNCV)を測定.
- 感覚神経:正中神経,尺骨神経,脛骨神経,腓腹神経のSAP,伝導速度(SNCV)を測定.
統計解析
ATTRv群とCIAP群で有意差がある項目に基づいて,複合スコア(臨床的および電気生理学的な項目)を決める.複合スコアでの2群の鑑別能の評価として,ROC解析を行う.
発症2年以内の症例でのサブ解析も行う.
結果
ATTRv 35例(遺伝子変異はV30M 42,8%,P64L 51.4%,V122I 5.7%),CIAP 55例を解析した.
ATTRv群 vs CIAP群
症状,既往など
ATTRv群で運動症状が高頻度(p = 0.002), CTS既往が多い(p = 0.001),発症年齢が高い(64.3 ± 9.9 vs 58.2 ± 11.2; p = 0.011)
神経生理学的検査
ATTRv群の方が,すべての神経でSAP, CMAPが低い(p < 0.05)
ATTRv群の方が,脛骨神経CMAPの消失 (47% vs 29%), 正中神経SAP低下(75% vs 24%), 尺骨神経SAP低下(54% vs 26%),正中神経CMAP低下(75% vs 26%), 尺骨神経CMAP低下(82% vs 26%)が多い.
複合スコア
ROC解析では,≧5点をカットオフとすると,ATTRvとCIAPの鑑別における,感度96.6%,特異度63,6%であった(AUC=0.86).発症2年未満では,ATTRv群の方が,CIAP群よりスコアが高かった(7.4 + 1 vs 4 + 3.1, p<0.001)
読んだ感想
本研究で提唱されたスコアは診察と一般的な神経伝導検査で算出でき,感度も良く確かにスクリーニングとして有用かと思った.
本研究の症例は,本邦でのATTRv症例とはやや異なる集団であり,このスコアがどの程度本邦でも有用か.本邦のATTRvの多くを占めるV30Mが,本研究では42.8%であり,遺伝子変異の割合も国内の症例とは差がある.また,本研究ではATTRv群の年齢が高く,高齢発症型に相当すると思われる.若年発症型と高齢発症型で臨床像がやや異なることも指摘されており,このスコアが若年発症型でも有用なのか是非今後の研究に期待したいとことである.