非常に久しぶりの更新です.
ここ数ヶ月非常に多忙のため,興味のある論文がなかなか読めず,もどかしいです.
時間をかけず,ざっくり読んで,短くまとめてアウトプットできればいいのですが…なかなか難しいですね.読んで,理解して,まとめる速度,すべてが不足です.それでも,たまにはサイトでアウトプットするように心がけようと思います.日々学習,日々進歩です.
目次
Late-Onset Pompe Disease Presenting with Isolated Tongue Involvement
Case Rep Neurol. 2022 Mar 10;14(1):98-103
DOI: 10.1159/000521524
PMID: 35431876
症例
65歳 男性
主訴:4年かけて緩徐に進行する構音障害と嚥下障害.
現病歴
4年前の発語しにくいと感じた.
3年前に咀嚼の際に舌で食物を扱うのがむず感じ,嚥下時の残留も生じた.
2年前には,固形物を飲み込みにくくなり,半固形も飲み込みにくかった.柔らかい食べ物に変更した.舌がスムーズに動かせないことに気づいたため,神経科へ紹介された.舌にfasciculationを認める以外は所見なし.脳と全脊髄のMRIが行われたが異常なし.神経伝導検査と舌を含めた針筋電図が行われたが,正常であった.
徐々に嚥下は緩徐に悪化した.他の神経科でも筋電図が行われ,自発放電(fibirllation+PSW)を認めた.診断基準は満たさないものの,MNDとしてリルゾールが開始された.
しかし,診断に納得行かず,他の医療機関へ紹介された.精神症状はなく,歩行は正常.構音障害があり,発語では歪み,とくに”L”の発音で歪んでいた.言語機能は正常.脳神経所見は特記すべき所見はなかったが,舌でfasciculationを認め,軽度萎縮し,軽度筋力低下を認めたが,偏位はなかった.筋力はすべてでMRC5/5であった.腱反射はすべて1+であった.感覚や協調運動に異常なし.足底反射が下向きであった.
針筋電図を再検したところ,舌で中等度の自発電位を認めた.随意運動では,慢性の脱神神経所見を認めた.ミオトニー放電はない.高振幅MUPがみられ,動員は低下なかった.胸髄領域と大腿部では,多相性電位とfasciculation,高振幅MUPを認め,軽度動員低下が認められた.両上腕とふくらはぎでは,fasciculationは認めず,軽度の多相性電位があり,いくつかの高振幅MUPが見られたが,動員は保たれていた.NCSは正常.筋疾患よりも神経疾患が考えられたが,特定のMNDn診断には至らず,更に精査した.
広範な検査では,血算や肝腎機能,電解質,炎症反応,B1,B6,B12,葉酸,タンパク電気泳動,免疫グロブリン,甲状腺機能,抗甲状腺抗体などは異常なし.血管炎や自己抗体のパネルは陰性.抗Ach受容体抗体と抗MuSK抗体は陰性.しかし,血清CKが284 U/L(正常は22-198 U/L)と軽度上昇.脳と脊髄MRIの再検は異常なし.
LOPDの精査を行った.GAAエンザイム活性は低下していた(1.06 μmol/L/h;基準値2.10-29.00).次世代シーケンサーでは,GAA遺伝子で病的変異17q25.2-q25.3を認めたため,LOPDのの診断に至った.
酵素補充療法とリハビリを行った.軽度筋力改善,発語や舌の力が改善した.
診断
遅発型ポンペ病(LOPD:Late-Onset Pompe Disease)
考察
LOPDの臨床症状は無症候性高CK血症から,重度の近位筋筋力低下,呼吸筋筋力低下人工呼吸器が必要になるなど,非常に多岐に渡る.舌の症状は幼児期発症ポンペ病(IOPD:infantile-onset Pompe Disease)の症状として一般的である.しかし,LOPDでは初期に舌が単独で障害されることは稀である.
遅発型ポンペ病における舌所見に関する既報告
LOPDでの顔咽頭筋の障害は,過去の報告でも強調されている.
- Dubrovskyらの報告:LOPDでの19例中100%で舌の筋力低下があったと報告.95%で軽度~中等度で.構音障害と嚥下障害が37%でみられた.
- Jonesらの報告:定量的な舌筋力低下は80%でみられた.29%が軽度で29が中等度,42%が重度.
LOPDでは,NMOと較べてMRIで舌の異常が高頻度にみられる.MRIで舌や体幹部の筋異常を認める.
Bright tongue signはMNDで見られる舌のT1高信号のことであるが,LOPDでもみられる.Karamらの報告では,LOPDの4/6例でbright tongue signがみられ,他のMNDでは4/28でみられた.舌萎縮はLOPDの3/6でみられ,MNDでは6/28であった.
2021年の関節研究では,LOPDでは他の後天性/遺伝性ミオパチーよりも重度の舌障害を呈していることが報告された.
遅発型ポンペ病の筋電図所見
豊富な自発電位と様々なEMGパターン.
筋原性変化は70%でみられ,神経原性変化や自発放電(ミオトニー放電,偽性ミオトニー放電,fib,PSWなど)もみられる.
文献を読んだ感想
一見すると進行性球麻痺と診断してしまいそうな所見です.筋電図所見も神経原性変化であり,この症例でGAA酵素活性を測るという考えには至るかは自信がないです.進行性球麻痺としては経過が長いのが違和感があり,もしかしたら抗IgLON5抗体の測定も考えてしまうでしょうか.
本症例は除外診断は十分できていたのか,本当にPompe病だけで説明できるのか,という部分には疑問が残る気もしますが,GAA酵素活性の測定の閾値は低くしようと感じました.
追加で読みたい文献
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17643989/
Neuromuscular Disorders 17 (2007) 698–706
遅発型ポンペ病 38例をまとめた報告です.また今度まとめてみようかと思います.
Bright tongue singについて,以前文献読みました.参考になれば幸いです.